手の目のやつら

映画『パンスラビリンス』にでてくる妖怪、ペイルマンをみなさんはご存じだろうか。


なんだか白っちくてだらんとした肌に骨が浮き上がっており、絶対に腐臭とかがしそうな感じがするこのお方が噂のペイルマンさんである。しかしご覧の通り、なんといっても彼の一番の持ち味は「手のひらに目がある」ってことですよね。劇中ではこの状態で主人公の少女を追いかけてくるのですが、それがもう恐ろしいことこのうえないのです。けれどもなんだか少しユーモラスなところもあるペイルマンさん。手のひらに目があると、走る時も手をふることができないから、ちょっと不便でかわいそう。

この「手のひらに目がある」点は、かの有名な岡本太郎さんも同じなようで

岡本太郎記念館には上記のペイルマンさんと同様のポーズをとられている写真もあった。


さて、ここで疑問がふっとわいてくる。この「手のひらに目」のアイディアはどこからきたのかしら?と。わからないことがあったら、昨今はもうグーグルさんの出番ですよね!さっそく「ペイルマン 元ネタ」についてお伺いすると
「ペイルマンは骨と皮だけの老人をイメージした。手のひらの穴はキリストの聖痕のあとから思いついた。さらにそこに目をはめた」
「ペイルマンはエイのマネ」
等の情報がでてきた。これは主に監督のギレルモ・デル・トロさん自身の発言で、どうやら岡本太郎からインスパイアされたわけではなさそうだ。

そこでさらに調べてみると、「手の目」というそのまますぎるお名前をもつ日本発祥の妖怪がいることがわかった。

以下wikipediaから引用

手の目(てのめ)は、鳥山石燕による江戸時代の画集『画図百鬼夜行』にある日本の妖怪。


座頭姿で両目が顔ではなく両手の平に一つずつついている。『画図百鬼夜行』には解説文がないために詳細は不明だが、江戸時代の怪談集『諸国百物語』には「ばけ物に骨をぬかれし人の事」と題し、石燕が手の目のモデルにしたといわれる京都の怪談が以下のように記述されている。ある男が七条河原の墓場に肝試しに行ったところ、80歳くらいの老人の化け物に襲われ、その化け物には手の平に目玉があった。男は近くの寺に逃げ込み、その寺の僧に頼んで長持ちの中にかくまってもらったところ、化け物は追いかけてきて、長持ちのそばで犬が骨をしゃぶるような音を立て、やがて消え去った。僧が長持ちを開けると、男は体から骨を抜き取られて皮ばかりになっていたという

他にも悪党に殺された盲人の「目が見えないならせめて手に目があれば」という執念によって「手の目」になったという話もあるそうな。これはもう「老人」「皮ばかり」、入れ歯がなくて困っている感じの口元、等きわめてペイルマンさん色が強い!民俗学に関心のあった岡本太郎の「手のひらに目」もおそらくこの「手の目」からの影響ではないかしら。

他にも、昔ホリケンが深夜枠のネプチューンでやっていた「潜入!秋葉カンペーさん」にも手の目があるようで

「手の目」のイメージは、ホラーだけではなくコメディにも取り入れ可能ということがわかった。

その他、変わり種では、中国の明時代の小説『封神演義』登場人物の楊任がいる。彼は目の部分から手の目が生えており、その目で天庭・地穴・俗世界の全てがみわたせるとのこと。それにしても、なんともスぺクタクルな顔面である。


こんなにも同じようなモチーフが世界中で使われているのは、おそらく「手」が第2の「目」であるという感覚が共有されているからなのだと思う。視覚に障害のある人が、相手の顔をみつめるかわりに、手のひらで顔をなでるように。「手の目」の親戚でよりメジャーな「額の目」は、どちらかというとスピリチュアルな雰囲気がありますが、ホラーにもユーモラスにもなりえる「手の目」のほうが、実はイメージソースになりやすいのではないかとも思いました。